エッセイ
【テーマ:追加装備について】
航海に向けての追加装備について (新月:2009年03月04日掲載) ◇はじめに
これから外洋航海に出掛けたい、出掛けようと考えておられる方にとって、装備に何を追加していくかは頭を悩ませる課題だと思います。しかし欧米諸国に比べロングクルージングがあまり盛んで無い日本においては、船の装備に関する情報元か限られてしまい、あまり実用性に確信が無いまま追加工事に着手する人が多いのではないでしょうか。私も市販されている本以外に殆ど判断基準を持たず、限られた予算の中でどんな追加装備や搭載品に優先順位を与えたら良いのか悩みました。
そこで今回は船を長距離航海用に艤装し直すにあたって、オリジナルの状態にどんな装備を追加し、どんな工事を施し、新たに何を搭載したかを書いてみます(法廷備品は除く)。またそれらのうち余り必要で無かった物、逆にこれも積んでおくべきだったと言う物も、(あくまで私見ですが)併せて書いてみたいと思います。エッセイと言うよりは参考情報とお考え下さい。 ◇デフォルト(購入時の状態)
「新月」はクルーザーレーサータイプとも呼ばれる、近年一般的なプロダクション艇です。チャーター市場をターゲットに作られたそうで、見た目はちょっとレーシング向きっぽい形をしていましたが、中身は一週間程度のインショアクルージング向きの装備・レイアウトを持った船でした。標準装備(法廷備品以外)は概ね以下のものが付いていました。
・冷蔵庫 ・ガスコンロ(プロパン) ・ガスオーブン(プロパン) ・ウォータヒータ(エンジン使用時のみ稼動) ・電動ビルジポンプ(船内) ・手動ビルジポンプ(船外) ・ウォータプレッシャポンプ ・真水のタンク×2系統 ・燃料タンク×1 ・スタートバッテリ×1 ・サービスバッテリー×2 ・各船内照明 ・GPS ・デプスサウンダー ・速度計 その他、前オーナー時代に取り付けたVHF無線機とオーディオ機器がありました。 ◇船外に追加した装備
先ず、船外に追加した装備から挙げてみましょう。
・ジブファーラー ・インナーフォアステイ ・マスト昇降用ステップ ・ライフラフト取付用マウント ・ダジャー ・ウインドカバー ・ブームレスト ・アンテナアーチ ・ソーラーパネル ・風力発電機 ・オートパイロット ・ウインドベーン ・アンカーウインドラス(電動) ・スペアアンカー×4 ・アンカーチェーン(50M。後に20M延長) ◇船内に追加した装備
次に、船内に追加した装備です。
・気象FAX ・アマチュア無線機 ・レーダーディテクター ・過充電防止装置(風力、太陽発電機用) ・直流→交流インバータ(100V) ・交流電源用船内配線 ・ビルジポンプ(増設:電動×2、手動×1) ◇工事を伴わない搭載品
その他、長距離航海の為に搭載した物は以下の通り。
・ディンギー(テンダー) ・船外機 ・折畳自転車 ・ハンディGPS ・発電機 ・電子レンジ ・非常時用ラダー ・コンパニオンウェイスペアハッチ(挿し板) ・非常食/非常水 これらの中で、発電機と電子レンジは全く必要を感じませんでした。 ◇できれば追加・改良したかった装備
次に、事情が許せばもっとこうしておけば良かったと言う点を挙げてみます。
・燃料タンク増設 燃料タンクは180リットルでしたが何時も同量程度の燃料をデッキ上にポリ缶で置いていました。重心が高くなる難点もあり、給油も面倒でしたので、可能であれば増設したかったです。 ・バッテリー増設 サービス用に計160アンペア前後のバッテリーを積んでいましたが、実感として不十分でした。予算があれば増設したかったです。 ・冷蔵庫の低電力タイプへの変更 冷蔵庫は付いていましたが電機を食いすぎるので殆ど使いませんでした。最近は省電力のタイプがあるそうなので、それと交換すれば実用できたのではないかと考えています。 ・交流→直流コンバータ(バッテリーチャージャー)増設 経済的な理由によりあまりマリーナには留めない方針でしたが、それでも結果的にはマリーナ利用はそこそこあったし上架中もヤードの電機がもらえたりするので、陸電からバッテリーをチャージできればバッテリーの劣化を防止する助けになったのでは無いかと思います。 ◇最低限載せたい物
法定備品は必ず積まなければならないので考える余地はありませんが、それ以外で必ず取り付けたい、積みたい装備に優先準備を付けるとすれば、船や乗員の安全確保に関わる物を上位にすべきでしょう。
以下はショートハンド(少人数での航海)を前提とした場合の私の個人的な意見になりますが、最低限用意したい装備です。 ・ストームセールや予備のセール ・充分な長さと本数のロープ及び擦れ止め ・複数かつなるべく異なるタイプのスペアアンカー ・アンカーウインドラス(出来れば電動/非常時には手動可) ・ウインドベーンとオートパイロット(どちらか一つならウインドベーン) 電気系統が新でも動作する、また壊れた際の修理が多くの場合用意である事などから、オートパイロットよりもウインドベーンの優先順位を上に置きました。 ・予備のGPS(電池式) セキスタント(六分儀)が必要不可欠だと言う人は多いです。私もその意見に反対ではありません。しかし実際には私は積んでいませんでした。GPSの信号を受信できなくなるような事情(世界的な電波異常が起きたり、米国が信号を止めたり)が無ければ、セキスタントよりはハンディGPSの方がはるかに実用性があると考えたからです。前述のような特殊な事例が起きた時はあきらめると言う考え方でした。 ・ダジャー ダジャーは体力の消耗を抑えるのに非常に有効で、その意味において安全に直結します。正直、ダジャーの無い船で長距離を走りたいとは決して思いません。 シングルハンドで航海する場合は自分一人しか人手が無いので、セーリングに関係するコントロールラインを出来るだけピット一箇所に集中させて引き廻したり、マストに一人で登れる様に足場を付けたりと、もう一工夫が必要です。またアンカーの回収やセールの上げ下げ時に舵を離れなければならないので、オートパイロットがあるととても助かります(ウインドベーンは帆走時にしか機能しない為使えない)。 ◇必要なものから無理なく準備
冷蔵庫やインバータ、発電機等の電気製品はあれば快適なクルージングライフが送れますが、必要不可欠な物では無いので予算やクルージングスタイルと相談して載せるか否かを決めれば良いでしょう。陸電(交流電源)を船内に引き込めるとマリーナに入った時に便利ですし、電圧の高い国対策にダウントランスがあると更に良いですが、こちらも予算やクルージングに対する考え方次第で決める事で、必要不可欠な装備とは思いません。いずれにせよ電機装備は何時か壊れるものですし、最悪それらが無くても運行が可能な状態に船を用意すべきでしょう。
反対に航行や係留、停泊時の安全に関わる装備はとても重要です。使うか使わないか分からない電気製品にお金をかけるよりも、まずはこれらに多くの予算を割くべきでしょう。 どんな装備にするにしろ、必ず予算が必要です。予算はクルージングにおいては一般的に有限で、航海が始まってしまえば基本的に生活費に充てられて減る一方です。航海途中で大きな買い物をするのは、思った以上に経済的な負担を感じるものですので、装備はよく考え、出来るだけ出航前(すなわち資金調達や増強が可能な段階)に装備・購入しておきましょう。
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