長距離航海者の広場
エッセイ
【テーマ:自動操舵装置について】
アンケート回答例:「新月」の場合
(2007年08月18日掲載)
【質問1:自動操舵装置はウインドベーン、オートパイロットどちらを載せていましたか? または、両方とも積んでいましたか?】
 はじめはウインドベーンのみ、後にオートパイロットも載せました。
【質問2:ウインドベーン、オートパイロットそれぞれのメーカー名や機種名を、よろしければ教えてください。 また、なぜその機種を選んだのかの理由も併せて教えていただけますでしょうか?】
 ウインドベーン:アリエス(Aries)
 選択理由:本に紹介されていた幾つかの候補の中で、インターネットを通して最も詳細な情報が得られたのが、アリエスでした。当時私は長距離航海用の装備に関して殆ど知識を持たなかったので、多くの情報が得られたアリエスを自然に選択しただけで、別の機種との比較の末選んだわけではありませんでした。
 ちなみにアリエスの発明者はイギリス人だそうですが、当時この人は長期のクルージングに出ていてイギリスでの製造はされていませんでした。しかしデンマーク人のセーラーがライセンスを取って製造及びメンテナンスを継続しており、私の見つけたサイトもこの人のものでした。現在では発明者もクルージングから帰っており、本家でも製造販売を再開しているようです。
 オートパイロット: オートヘルム(Autohelm)/レイマリーン(Raymarine) ST3000Wheel
 選択理由:Autohelm、Raymarine、Raytheonと言うメーカー名で流通しているSTシリーズは皆同一の商品群と思われますが、これらSTシリーズ以外に手頃な価格で購入できるオートパイロットを見つけられなかったのが選択の理由です。
【質問3:1の質問でウインドベーン、オートパイロットどちらか一つを載せていたとご回答くださった方は、なぜそれを選んだのかを教えてください。】
 航海に出かける前の準備段階では、あまりウインドベーンとオートパイロットの特性の違いを理解しておらず、電力を必要としないウインドベーンの方が良いと思ってそれだけ積むことにしました。
【質問4:1の質問でウインドベーン、オートパイロット両方載せていたとご回答くださった方は、なぜ両方載せたのかを教えてください。】
 最初の航海をトラブルで失敗した後再出航の準備をしていた時、ウインドベーンの弱点である無風下での運用の為に新しく追加しました。デッキ下につける油圧式が欲しかったのですが予算的に苦しく、デッキ上に付けるタイプを買いました。またST4000を買ってみたところスペース的な問題で取り付けられず、ST3000を買いなおしました。
【質問5:ウインドベーンを実際に使った時に感じた長所や短所、注意していた点などありましたら教えてください。】
長所:
1. 電力には因らず、風力と水の抵抗を利用した機械式装置なので、バッテリーの消耗や電気的なトラブル、エンジントラブルなどで使えなくなる心配が無い。
2. かなりの強風下でも動作する。
3. 風が振れても振れに合わせて進路を修正してくれるので、セールのトリムを修正する必要が無い。
短所:
1. 上に立てる(風上に船を向けること)事が出来ない。
2. 後方からの風には動作が不安定で、特に真後ろでは誤動作が頻発し使えない。
3. 大きな波やうねりがある場合も誤動作する場合がある。
4. 無風や極端な微風では動作し無い。
注意点:
1. 航海中は何日間も何週間も常に動作しており、また海水の抵抗やそれから生まれる振動も常に受け止めているので、磨耗部品の点検や注油、取り付けボルト、ネジ類の増し締めなどは、次の出航前毎に必ず行いました。
2. セルボラダー(風の振れにより動作する舵状の水中パーツ)からステアリングにリードされたロープが磨耗により切れないよう、定期的に長さを調節して力のかかる部分をずらしていました。
【質問6:オートパイロットを実際に使った時に感じた長所や短所、注意していた点などありましたら教えてください。】
長所:
1. 無風時や微風時に、機走下や機帆走下で使える。
2. 進路がぶれないので、チャンネル通過中等の状況下で一瞬舵から手を離したい時に便利。
3. セールの上げ下ろしの時など、上に立てる事が出来る。
短所:
1. パワーの弱い機種だと、強風下では力負けして使えない。
2. 電気製品なので水気や潮気で動作不能になったり、本体以外の電気的トラブルでも使えなくなる。
3. 寝ている間に使うと風が振れたときにセールに裏が入ってしまったりして、ばたばたしてうるさいし悪くすればトラブルの元になる。
注意点:
1. ST3000は本体モーター部を取り外せるタイプだったので、使わないときは常に外して船内にしまい、潮がかからないようにしていました。
2. モーター部とラット(ステアリングホイール)を繋ぐタイミングベルトがウインドベーンのロープに巻き込まれて切れるというトラブルが多かったので、ラットのスポークに仮止め出来る仕組みを付けていました。またこの仮止め場所に航海中着けっぱなしにしておくと紫外線により痛んで極端に寿命が縮まる為、使わないときは回収して船内にしまっていました。
【質問7:ウインドベーンやオートパイロットが壊れるなど、動作しなくなった経験がありますか? もしあれば現象や原因、その後の対処方法などを教えてください。】
 ウインドベーンは壊れたことはありません。オートパイロットはタイミングベルトを回す樹脂製のウオームギア(歯車)が割れてしまい、使えなくなったことがあります。この時は運よく部品が手に入ったので、自分で修理することが出来ました。また、タイミングベルトは3年の間に3、4本は切れたと思います。
【質問8:ウインドベーンやオートパイロットに関して、どのようなスペア部品を用意していましたか? またそれらを選んだ理由を併せて教えてください。 】
 ウインドベーンのスペアパーツは積んでいませんでした。ただベーン(風見状の板)は替えを4、5枚積んでいました。よく折れると聞いていたからですが、結果的には一度も折れませんでした。
  オートパイロットはタイミングベルトのスペアを3本くらい積んでおり、切れて残り1本くらいになったらまた補充していました。また途中でウオームギアが壊れるなど使い込んだ為に耐久性に問題が表れてきたので、丸ごともう一つ製品をスペアとして購入しました。
【質問9:クルージング中に自動操舵装置関係で苦労をした経験、興味深かった経験、その他お考えやご意見などありましたら、ご紹介いただければと思います。】
 実際の用途には関係の無い話ですが、グアム停泊中に台風で被害を受けたとき、4方に取っていたロープのうち船尾の2方が切れて船が振れ回り他艇と衝突してしまいました。この時ウインドベーンもかなり激しく他艇にぶつかったようで、事実上バンパーの役割を果たすことになってしまったのですが、表面上に多くの傷が残ったものの、その後の使用には全く問題が無く、如何に頑丈に作られているかが分かって驚いたことがあります。
「新月」 Gib's Sea 414 Plus
航海時期 2002〜2005
航海エリア 横浜〜八丈島〜小笠原〜グアム〜ポンペイ〜コスラエ〜バヌアツ〜ニューカレドニア〜ニュージーランド〜トンガ〜フィジー〜ニューカレドニア〜ニュージーランド